生と病の哲学 生存のポリティカルエコノミー  小泉義之 著

読書(自分の心に残った名言)

ちょっと足をのばし行ったことのない書店で、上の本に妙に惹きつけられ、
帰宅そうそう興味ありそうな部分を読み始めました。

哲学用語が難しく、簡単に読み進めることができませんが何となく理解できます。

「ポリティカルエコノミー」とは経済学的研究を総称しているものだそうです。

いま辞書をひきひき読んでいる曲黎敏先生の「生命沉思録」にも市場医学という言葉が
よくでてきて、一般の人が現在は医薬品の消費者にさせられているといっています。
(製薬会社の思惑で薬が乱用されている)

この本にも重要なことがたくさん書かれています。ひとつ紹介します。

第三章 脳のエクリチュール 脳への非侵襲的な侵襲

脳神経諸科学の研究論文には、まるで約束事でもあるかのように「fMRI(機能的磁気共鳴
画像法)、MEG(脳磁気計)、PET(陽電子放射断層撮影法)などの非侵襲的な脳活動計測方法
のおかげで研究は進歩している」に類する一文が書き込まれている。

それらの新しい計測法がそもそも何を計測しているかについては慎重な態度を表明
する研究者でさえ、小躍りしながら「非侵襲的」の一句を書き付けているように見える。

脳を侵襲しない計測機器を使いさえすれば、いかなる研究もイノセントであることを保証
されるかのようなのだ・・・・・・・・

脳計測機器が貢献したのでもあろうが、薬物療法普及・心理社会療法の普及が高唱されてきた。

脳の部位の構造に関する分子生物学研究が進めば進むほど、新たな薬物が次々と開発されて
いくことになる。それに歩調をあわせて、脳計測機器による検査や診断を普及させ、
脳神経系に作用する新薬の市場を開拓し、臨床専門家たちの域を擁護する。

拡大していくためには、脳の病気を、予後と転機が明確な疾病単位として硬く定義する
のではなく、多様な症候群として緩く定義する。

そのほうが得策であるし、疾病単位を根拠とする入院収容方式は病院経営上も効率的で
なくなっているからには、地域医療へと転換し心理社会療法を主とするほうが得策である。

医療費の受益者負担の拡大に伴い、地域に散在する潜在的患者たちを服用継続を処方
される消費者として主体形成するほうが得策である。

脳を非侵襲的侵襲によって領土化する。精神分裂病を統合失調症へ「呼称変更」したこと
には上のような理由でそれぞれの症状のリアリティーが蒸発されてきたということである。

近年の脳神経諸科学の言説は、言葉・態度・行動の変調や失調をダイレクトに脳の
特定部位の構造と機能に結びつけているだけである。

あるいはむしろ、当該の脳の部位にダイレクトに作用すると見なされる薬物が
「劇的に」言葉・態度・行動を変容させると思い込んでいるだけである。

いずれにせよ、一方では社会の中でマークされる変調や失調、他方では脳の中に
マークされる構造や機能、これら二つの間に横たわる膨大な空白に関しては、
十九世紀骨相学風の物言いに終止するだけで、実は何の関心も払われてはいない。

精神を病んでいる人は医学の進歩に反し、日に日に増えているように思われます。

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